『(tefu)』とは、ヴィンテージ家具や雑貨などを月額サブスクリプションでレンタルできるサービス「vintaging-supplies」と、仕事、勉強、読書、お茶、語らいなど、思い思いの形で使えるラウンジスペースを中心にした複合施設「lounge」からなるサービス。今回301に声をかけてくれたUDS株式会社(以下、UDS)の金塚さんが企画を立ち上げ、現在は事業責任者を担当されています。
学生時代に建築学科で空間を学び、良い家具や空間に触れる機会が多かったという金塚さん。人が生きていくうえで家具は健康面でも視覚的な要素としてもかなり重要にもかかわらず、コストの面でコスパの良いものが選ばれがちな現実を目の当たりにし、「良い家具を使うための敷居を下げることで、より多くの人がコストを抑えつつ生活の質を上げることができるんじゃないか」と、『(tefu)』の立ち上げに至ります。
下北沢に続き今回で2店舗目となる『(tefu) lounge』は、仕事、勉強、読書、お茶、語らいなど、思い思いの形で使えるカフェ・ラウンジを中心にした複合施設。上質な家具のある空間を、より多くの人に使ってもらいたいという思いから誕生しました。
自由が丘駅前の商業施設『TRAINCHI』の全面リニューアルに伴い東急株式会社からUDSに声が掛かり、今回のプロジェクトが発足。301は、全体のプロデュースとプロジェクトデザイン、ブランディング面を監修する役割でプロジェクトに参画しました。
定例ミーティングでは、金塚さんが「ラウンジ」という言葉をセレクトされている狙いやその言葉に宿るイメージの深掘り、そこから「良いラウンジ、良い空間とは?」とテーマを広げ、徹底的に対話を重ねていきました。
メンバーそれぞれの経験から語られる、良い空間における条件の数々。上質な家具と植物、心地よい音楽、美味しいコーヒー、人との気持ちいい会話や繋がり。
ひとり集中して仕事と向き合うことはもちろん、コーヒーを飲みながらバリスタとちょっとした会話を交わしたり、ラウンジでリラックスしながら打ち合わせをしたり、お酒を飲みながら語り合ったり。
そんな、「生きること」と「働くこと」とが上質に、心地よく溶け合う空間にしたい。対話を重ねるうちに、「ワークスペースとライフスペースの本質的な融合」という、『(tefu) jiyugaoka』として実現したい空間のあり方が見えてきます。
プロジェクトメンバーとして真っ先に声を掛けたのは、『No.』のコーヒーセクションを監修し、ロースタリーカフェ『Raw Sugar Roast』を手がけるSwimの小田さんでした。『(tefu) jiyugaoka』の核に、機能として飲食が必要だと考えたためです。いい空間をつくるために、そこに誰がいるか?という点は非常に重要。単なるホテルのラウンジになってしまっては、コミュニティやカルチャーを育むことは難しいでしょう。
301の仕事の根幹に、「人と計画の車輪」という考え方があります。多くの場合、プロジェクトは計画側の車輪の話ばかり優先してされている印象がありますが、適切なプランというのは、人側の車輪がちゃんと回っているのを確認しながら計画側の車輪をチューニングしていくような作業だと考えています。
空間に対する議論が進んでからお店に声をかけてしまっては、その空間に対してお店は置いてきぼりになってしまいます。同じ熱量で、同じ絵を描きながら、一緒に場をつくっていけるように。こうして、UDS、Swim、301の3社が一体となりプロジェクトがスタートしたのでした。
「ここで提供されるのは、どのようなコーヒーだろう?」一杯のコーヒーから、さらにプロジェクトの意義やスタンスを考えていきました。
便利で効率的なワークスペースで提供されるのは、ポットに入ったいつでも誰でも注げばすぐに飲めるコーヒー。対して、今回のような、「生きること」を豊かにする心地よいワークスペースで提供されるのはきっと、少しの会話とともにバリスタから提供されるコーヒー。
便利さが生み出す快適さよりも、人と関わることの面倒さや少しの手間こそが価値だと思える人にこそ使って欲しいし、そういう場でありたい。
重ねてきた議論を、「STAY IN THE LOUNGE(ラウンジに滞在する)」というステートメントに落とし込み、実際には小田さん率いる『Raw Suger Roast』チームによるカフェ『amber』がこの場の顔として入ることで、空間・コーヒー・人が三位一体となった体験が実現しました。
場をつくる上で気にかけるべきは、「誰がその場に一番いるのか」という点だと考えます。今回の場合、『(tefu) jiyugaoka』の顔でありコミュニケーションの要となる『amber』チーム。301は、UDSと『amber』チームの間に入ってさまざまな調整を行いコミュニケーションをフォローし、両者が気持ちよくスムーズに仕事できる環境をつくることに徹しました。
『(tefu) jiyugaoka』は、ラウンジ、オフィス・スタジオ、カフェといった機能の異なる3つのフロアから構成されています。
それぞれの空間で、また空間同士を行き来しながら、人はどう滞在するのか。1日の流れはどのようなものになりそうか。入居前、チェックイン、仕事中、休憩中、チェックアウト、チェックアウトの後はどうか。ひたすらイメージを詰めていきました。
この議論が、机上で完結することはありません。つくり手の理想で終わらないよう、狂気なまでにとことん使い手の側に立ってリアリティを追求するのが301のスタイル。時間を費やして解像度を上げていき、この場合どうする?これも必要なのでは?と検討を重ねていきます。
街を練り歩きお店を訪ねたり、昔から住まいカルチャーをつくってきた方へのインタビューを行うなど、今回は自由が丘の街をより深く知るためのフィールドワークを行いました。
さらに、自分たちが思い描くような空間を実際に体験するため、プロジェクトメンバーでオーストラリアへも視察に行きました。プロジェクトにあたり小田さんが参照してくれたカフェのほか、いくつか参考になりそうな空間があったためです。タイトなスケジュールでしたが、弾丸で決行しました。
301は、プロジェクトの進行において、関係性の構築、価値観の共有を特に大切にしています。飲み会や出張で共に過ごす時間といった+αの部分も、プロジェクトには必要な要素。今回のオーストラリア視察は、チームビルディングと共通言語を持つという点において大きな意義をもたらし、一層強固なチームとなってその後を進めていくことができるまでになりました。
コンセプト策定や体験の設計がある程度まとまってきたら、次はクリエイティブの制作です。301では、多くの場合においてプロジェクト全体のプランニング/ブランディング/進行管理/クリエイティブに一気通貫して関わります。
メインビジュアルやWEBサイト、施設のあらゆるサイン、メンバーズカードやパンフレット、メニュー等のツール、SNSに至るまで、時間をかけ綿密に設計してきたコンセプトや体験設計を具現化するため、クリエイティブも一切の妥協なく進行しました。
こうして、2022年10月にオープンした『(tefu) jiyugaoka』。プロデュースしたオープニングイベントでは、東急の担当者さんに「自社が始まって以来一番の集客かもしれない」と言わしめるほど大勢の方にお越しいただき、SNSを通して多くの方に興味を持っていただくことができました。
プランニングやプロデュースをしました、と開業までが自分たちの仕事だと考えるのではなく、開業後にしっかりとそこに人が根付くことができるかというところまで責任を持って関与していきたい。
そのために、初期は301もサテライトオフィスとしてしっかりその場に拠点を構えることに。仕事の打ち合わせも『(tefu) jiyugaoka』にクライアントを呼んで行ったり、地道にこの場所を紹介し人を繋げたりしながら、最初のコミュニティの芽生えまで寄り添いました。